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8-OHdGの解説 Brief lecture about 8-OHdG.
活性酸素(ROS)と老化、生活習慣病
  活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)は生体内においてDNA、脂質、蛋白質、酵素などの生体高分子と反応し、 その結果脂質過酸化、 DNA変異、蛋白質の変性、酵素の失活をもたらす。酸化ストレスの上昇はこうした分子レベルの生体酸化損傷を増加させ、様々な疾病や老化亢進に つながると考えられており、がん、糖尿病、高血圧といった生活習慣病をはじめとして数多くの疾病において酸化ストレスが重要な役割を 果たしていることが明らかにされつつある1)。生体内の酸化ストレスを正確に評価し、酸化ストレス低減のための対策を施すことは、 病態把握、未病診断、病気予防、老化制御に役立つと期待されている。
8-OHdGの形成
  8-hydroxy-2’-deoxyguanosine (8-OHdG / 8-oxo-dG:以下8-OHdG)はDNAを構成する塩基の一つdeoxyguanosine (dG)の8位が ヒドロキシル化された 構造を持つDNA酸化損傷マーカーである。dGはDNAの4種類の塩基のうち最も酸化還元電位が低いため、活性酸素による酸化を受けやすい。 このためdGの主要な酸化生成物である8-OHdGは活性酸素による生体への影響を鋭敏に反映する。現在最も広く用いられている酸化ストレスマーカーの 一つであり、動物種を問わず尿を使って非侵襲的に生体内酸化ストレスを評価できるほか、血清、末梢血白血球、臓器組織など多様なサンプルを 対象に測定できる。
1984年に葛西ら2)によって報告されて以来、8-OHdGに関する論文数は1300を超え、生物学的重要性、疾病との関係が明らかに されつつある3)。特に染色体DNAに発生した8-OHdGは複製時にG ⇒T変異(トランスバージョン)を惹起することから、 染色体における8-OHdGの増加は発がんリスクの上昇に関連すると考えられている4)。 染色体DNA上に形成された8-OHdGは修復酵素の作用により染色体DNAより切り出され細胞外に放出、腎臓を経て尿中に排出される。8-OHdGの由来 としてはこのほかミトコンドリアDNA、細胞内ヌクレオチドプールが知られている。8-OHdGは化学的に比較的安定な物質であること、 2次代謝などを受けずに尿中に排出されることから、生体内における酸化ストレスを定量的に反映するバイオマーカーとして利用されている。

尚、8-OHdG以外の核酸酸化マーカーとしてはチミジングリコール(TG)、8-hydroxy-guanosine (8-OH-G)、8-hydroxy-guanine (8-OH-Gua)等が 知られている。チミジングリコールはDNAに対する電離放射線により多量に形成されるが、DNA複製はTG部位で停止するため、発がんへの関与は 比較的少ないと考えられている5)。一方、8-OHdG部位ではDNA複製が停止せずG⇒T変異が誘発されるため、発がんリスクを高めると 考えられている。 他方、8-OH-GはDNAではなくRNAの酸化物であり、酸化ストレス亢進により増加することが報告されているが、 発がんとの関連性は知られていない。8-OH-Guaは、DNAおよびRNAの両方に由来する。
ELISAキットによる測定
  8-OHdGの測定は従来HPLC-ECD法によって測定されていたが、名古屋大学の 大澤ら(現:名古屋大学 名誉教授、愛知学院大学)6)は日本老化制御研究所と共同で 8-OHdGのELISAキットを開発し、このキットを用いて簡便に8-OHdGを測定できるようになった。 このキットに用いられているモノクローナル抗体(N45.1)はDNA酸化生成物である8-OHdGに対する特異性が高く、類縁物質であるRNA酸化生成物 (8-hydroxy-2’-guanosine等)に殆ど反応しない7)。尿サンプルの場合、前処理なしに多検体測定が可能である。
尿サンプル採取・保存法
  24時間蓄尿が最も精度が高い。体重当たりの1日排出量(ng/24 h/kg)として評価する。スポット尿を対象に測定する場合は、 日内変動の影響を抑制するため、生成速度補正またはクレアチニン補正が用いられる。生成速度補正を用いる場合、排尿時に全量を採取して、 前回排尿時からの経過時間、排尿液量、濃度から単位時間当たりの生成速度を算出する(単位:ng/h/kg)。採尿間隔6時間以上の早朝第一尿が 望ましい。クレアチニン補正を用いる場合には、激しい運動など、尿中クレアチニン濃度への影響因子に注意する。尿サンプルの保存は室温にて 3日間、冷蔵にて1週間、凍結条件下で長期保存が可能。室温〜冷蔵の場合は微生物の繁殖に注意する。凍結融解時に不溶物があれば遠心除去 してから測定する。

【参考値】:男性13.6 ng/mL(15.7 ng/mgクレアチニン)、女性10.3 ng/mL(15.7 ng/mgクレアチニン)ELISA法。
APドメイン(apurinic / apyrimidinic site)との関係
  DNAは複製時のエラーや紫外線、放射線といった様々な要因により損傷を受けることがあります。 その際、DNA修復機構として、損傷した塩基の除去、修復が行われます。APドメインとは、複製エラーや損傷を受けた 塩基が、修復の過程で切り出されたときに生じる塩基欠損部位のことを意味します。
8-OHdGはdGにラジカルが反応したときに形成されますが、APドメインは、8-OHdG以外の塩基修飾や損傷、あるいは複製エラーによっても 生じます。また、異常塩基/損傷塩基の発生からAPドメイン形成には、DNA修復酵素が関わっていることから、修復酵素の活性にも 影響を受ける可能性が考えられます。このことから、APドメイン測定値は、8-OHdG、あるいは他の酸化損傷マーカー測定値とは 必ずしも一致しない可能性があると考えられます。
【参考文献】
1) Oxidants, oxidative stress and the biology of ageing. Nature 408(6809), p239-247 (2000)Finkel T, Holbrook NJ.
2) Detection and identification of mutagens and carcinogens as their adducts with guanosine derivatives.
Nucleic Acids Res. 12(4), p2127-2136 (1984) Kasai H, Hayami H, Yamaizumi Z, Saito H, Nishimura S.
3) Analysis of 8-hydroxydeoxyguanosine as a marker of oxidative stress.
Foods Food Ingredients J Jpn 194,p10-16(2001). Kasai H.
4) Insertion of specific bases during DNA synthesis past the oxidation-damaged base 8-oxodG.
Nature 349(6308), p431-434 (1991) Shibutani S, Takeshita M, Grollman AP.
5) A structural rationale for stalling of a replicative DNA polymerase at the most common oxidative thymine lesion, thymine glycol.
Proc Natl Acad Sci U S A. 104(3), p814-818 (2007). Aller P, Rould MA, Hogg M, Wallace SS, Doublie S.
6) Quantitative determination of urinary 8-hydroxydeoxyguanosine (8-OH-dg) by using ELISA.
Res Commun Mol Pathol Pharmacol. 107(1-2), p39-44 (2000) Saito S, Yamauchi H, Hasui Y, Kurashige J, Ochi H, Yoshida K.
7) Quantitative immunohistochemical determination of 8-hydroxy-2'deoxyguanosine by a monoclonal antibody N45.1: Its application to ferric nitrilotriacetate-induced renal carcinogenesis model.
Lab. Invest. 76(3), p365-374 (1997). S.Toyokuni, T.Tanaka, Y.Hattori, Y,Nishiyama, A.Yoshida, K.Uchida, H.Hiai, H.Ochi, and T.Osawa.
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