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用語解説/トピックス  
酸化ストレス/活性酸素種(ROS)とは?

   活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)は生体内においてDNA、脂質、蛋白質、酵素などの生体高分子と反応し、その結果脂質過酸化、 DNA変異、蛋白質の変性、酵素の失活をもたらす。酸化ストレスの上昇はこうした分子レベルの生体酸化損傷を増加させ、様々な疾病や 老化亢進につながると考えられている。 近年、この活性酸素種が老化、がん、糖尿病、高血圧といった生活習慣病をはじめとして数多くの疾病に深く関わっているとともに、 活性酸素種自体もシグナル伝達や免疫機構において重要な生理機能を担っていることが明らかにされてきた。 生体内の酸化ストレスを正確に評価し、酸化ストレス低減のための対策を施すことは、 病態把握、未病診断、病気予防、老化制御に役立つと期待されている。

酸化ストレスマーカーは、大きく分けて酸化力(酸化損傷)と抗酸化力(抗酸化物質および抗酸化酵素)に分類される。 これまでに数多くの酸化ストレスマーカーが報告されており、その一部については測定試薬や受託検査として実用化されている。 酸化損傷マーカーの多くは尿中に排出されることから、生体内の酸化ストレスを非侵襲で調べる手掛かりとなる。 特にDNA酸化生成物である8-OHdGはよく調べられており、最もよく用いられる酸化ストレスマーカーの一つである。

酸化ストレスは酸化と抗酸化のバランス

   酸化ストレス(oxidative stress)の定義は、H Siesによると生体内において酸化力(pro-oxidant)が抗酸化力(anti-oxidant)を上回った状態と されている。酸化ストレスを惹き起こす要因は、生体内において発生する活性酸素種に由来する酸化反応である。ROSは呼吸による酸素消費に 伴って発生するほか、炎症反応、放射線や紫外線、喫煙やアスベスト等の化学物質への曝露、激しい運動等により発生する。

一方、生体内には活性酸素種を消去する抗酸化機構が備わっており、活性酸素種による酸化から生体を守っている。活性酸素種の消去機構は 抗酸化酵素と、抗酸化物質より構成される。抗酸化酵素としては、例えばスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)やカタラーゼ(CAT)等が 知られており、それぞれスーパーオキサイド、過酸化水素を消去するほか、グルタチオンペルオキシダーゼ(GSH-Px)のように過酸化脂質 (LOOH)を還元する酵素も存在する。抗酸化物質としてはビタミンCやビタミンE、βカロテンといった抗酸化ビタミンのほか、 リコピンやアスタキサンチンといったカロテノイド類、カテキンやクルクミンといったポリフェノール類など数多くの種類が知られており、 その多くは、食品として摂取される。こうした抗酸化物質は数々の疫学調査によって、健康維持、疾病予防に重要な役割を果たすことが 示されている。生体内において上記の抗酸化機構を上回る過剰な活性酸素種が発生すると、酸化ストレスが発生、ROSによる酸化反応が亢進する。









DNA酸化マーカー 8-OHdG

   8-hydroxy-2’-deoxyguanosine (8-OHdG / 8-oxo-dG:以下8-OHdG)はDNAを構成する塩基の一つdeoxyguanosine (dG)の8位が ヒドロキシル化された構造を持つDNA酸化損傷マーカーである。dGはDNAを構成する4種類の塩基のうち最も酸化還元電位が低いため、 活性酸素による酸化を受けやすい。このためdGの主要な酸化生成物である8-OHdGは活性酸素による生体への影響を鋭敏に反映する。 現在最も広く用いられている酸化ストレスマーカーの一つであり、動物種を問わず尿を使って非侵襲的に生体内酸化ストレスを評価できる。 1984年に葛西らによって報告されて以来、8-OHdGに関する論文数は1300を超え、生物学的重要性、疾病との関係が明らかにされつつある。 特に染色体DNAに発生した8-OHdGは複製時にG ⇒T変異を惹起することから、染色体における8-OHdGの増加は発がんリスクの上昇に関連すると 考えられている。

染色体DNA上に形成された8-OHdGは修復酵素の作用により染色体DNAより切り出され細胞外に放出、腎臓を経て尿中に排出される。 8-OHdGの由来としてはこのほかミトコンドリアDNA、細胞内ヌクレオチドプールが知られている。 8-OHdGは化学的に比較的安定な物質であること、2次代謝などを受けずに尿中に排出されることから、 生体内における酸化ストレスを定量的に反映するバイオマーカーとして利用されている。

8-OHdGの測定は従来HPLC-ECD法によって測定されていたが、名古屋大学の大澤らは日本老化制御研究所と共同で8-OHdGのELISAキットを開発し、 このキットを用いて簡便に8-OHdGを測定できるようになった。このキットに用いられているモノクローナル抗体(N45.1)は DNA酸化生成物である8-OHdGに対する特異性が高く、類縁物質であるRNA酸化生成物(8-hydroxy-2’-guanosine等)に殆ど反応しないことが 特徴である。尿、血清、組織サンプルについても測定が可能である。 現在、英国Leicester大のMS Cookeらを中心に、European Standards Committee of Urinary (DNA) Lesion Analysis (ESCULA)が組織され、 ELISA法、HPLC-ECD法、LC-GC/MS法、UPLC-MS/MS 法、GC-MS法について8-OHdG測定値の標準化が検討されている。
【参考文献】
1) Sies H: Oxidative stress: from basic research to clinical application. Am J Med 91(3C): 31S-38S, 1991
2) 葛西宏: 酸素ラジカルによるDNA損傷と突然変異. 環境変異原研究 10: 73-83, 1988
3) Kasai H, Hayami H, Yamaizumi Z, et al: Detection and identification of mutagens and carcinogens as their adducts with guanosine derivatives. Nucleic Acids Res 12: 2127-2136, 1984
4) Kasai H: Analysis of 8-hydroxydeoxyguanosine as a marker of oxidative stress. Foods Food Ingredients J 194: 10-16, 2001
5) Shibutani S, Takeshita M, Grollman AP: Insertion of specific bases during DNA synthesis past the oxidation-damaged base 8-oxodG. Nature 349(6308): 431-434, 1991
6) Saito S, Yamaguchi H, Hasui Y, et al: Quantitative determination of urinary 8-hydroxydeoxyguanosine (8-OHdG) by using ELISA. Res Commun Mol Pathol Pharmacol 107: 39-44, 2000
7) Toyokuni S, Tanaka T, Hattori Y, et al: Quantitative immunohistochemical determination of 8-hydroxy-2’-deoxyguanosine by a monoclonal antibody N45.1: Its application to ferric nitrilotriacetate-induced renal carcinogenesis model. Lab Invest 76: 365-374, 1997
8) Suzuki K, Ito Y, Ochiai J, et al: The relationship between smoking habbits and serum levels of 8-OHdG, oxidized LDL antibodies, Mn-SOD and carotenoids in rural Japanese residents. J Epidemiol 13(1): 29-37, 2003
9) Kakimoto M, Inoguchi T, Sonta T, et al: Accumulation of 8-hydroxy-2’-deoxyguanosine and mitochondrial DNA deletion in kidney of diabetic rats. Diabetes 51: 1588-1595, 2002
10) European Standards Committee on Urinary (DNA) Lesion Analysis, Evans MD, Olinski R, Loft S, et al: Toward consensus in the analysis of urinary 8-oxo-7,8-dihydro-2'-deoxyguanosine as a noninvasive biomarker of oxidative stress. FASEB J 24(4): 1249-1260, 2010
活性酸素種/フリーラジカル
好気性生物が酸素(3O2)を消費する過程で、反応性の高い副産物として スーパーオキサイド/スーパーオキサイドアニオン(O2・-)、ヒドロキシラジカル(HO・)、過酸化水素 (H2O2)、一重項酸素(1O2)の4種類の活性酸素種が生成される。

活性酸素種と よく似た用語にフリーラジカルがある。フリーラジカルの定義は不対電子を持つことであり、活性酸素種のうち、スーパーオキサイドと ヒドロキシラジカルはフリーラジカルであるが、過酸化水素と一重項酸素はフリーラジカルには該当しない。
生体内で発生した活性酸素種は、抗酸化物質や抗酸化酵素の働きにより大半が消去されるが、過剰に発生した活性酸素種は DNA脂質、酵素、 タンパク質 といった重要な生体成分を酸化させる。こうした生体成分の酸化損傷は、老化現象の亢進だけでなく、糖尿病、高血圧、動脈硬化などの 生活習慣病を はじめとする様々な疾患の発症に深く関わっていることが 明らかにされつつある。活性酸素種/フリーラジカル自体は、反応性が高いため、生体内における半減期が比較的短く、 直接測定することは困難です。 そこで、比較的安定な物質である酸化損傷マーカーを用いることで、生体内における活性酸素の発生状況を知ることができる。

一般的に、消費する酸素の2%程度が活性酸素に変わるとされています。 最近の文献(Erich B. Tahara, et. al., Free Rad Biol Med 46(9), p1283-1297, 2009)では、ラット脳、心臓、肝臓、腎臓、骨格筋由来の ミトコンドリアでは、酸素消費量の0.1〜0.2%が活性酸素種に変換されることが報告されています。
活性酸素種の中で、過酸化水素(H2O2)は比較的安定であることが知られています。活性酸素種は従来、生体分子を酸化損傷すると されてきましたが、最近の研究により、過酸化水素が細胞内においてシグナル伝達物質(セカンドメッセンジャー)として機能していることが 明らかにされつつあります。
【参考文献】:
Hydrogen peroxide as a cell survival signaling molecule. Gillian Groeger, Claire Quiney, Thomas G Cotter. Antioxidants and Redox Signaling, ahead of print. doi:10.1089/ARS.2009.2728

Role of Hydrogen Peroxide in NF-κB Activation: From Inducer to Modulator. Virginia Oliveira-Marques, H. Susana Marinho, Luisa Cyrne, Fernando Antunes. Antioxidants and Redox Signaling 11(9),p2223-2243(2009)
酸化ストレスとは?
酸化ストレス(oxidative stress)とは、活性酸素(種)と抗酸化システム(抗酸化物質(antioxidants)、抗酸化酵素(antioxidant enzymes))との バランスとして定義されています。酸化ストレスが高いとは、生体内において活性酸素(フリーラジカル)による酸化作用と、 抗酸化物質等の抗酸化(還元)作用とのバランスが崩れ、酸化反応が亢進する状況のことを言います。 酸化/還元は電子の受渡しによって定義することができます。
酸化とは電子を放出する反応、還元とは電子を受け取る反応のことです。糖や脂肪などの栄養素は、体の中で分解され、細胞の中にあるミトコンドリア で酸化的リン酸化反応によってエネルギーに変換されます。この過程では酸素分子(O2)は還元されて水(H2O2)と なりますが、この過程で酸素分子の一部が反応性の高い活性酸素種となります。活性酸素種の一部は、免疫細胞による生体防御にも利用されますが 過剰に発生した活性酸素種は、酸化ストレスを亢進させ、DNA脂質タンパク質といった生体成分を酸化させていきます。 酸化されたDNA脂質タンパク質の 中には、血液中や尿中に出てくるものがあり、こうした酸化性生物は、生体内の酸化ストレスを知る手がかりとなります(酸化ストレスバイオマーカー)。
特に、DNA酸化で発生する8-OHdG (8-hydroxy-2'-deoxyguanosine)、脂質酸化で発生する イソプラスタン(isoprostanes) ヘキサノイルリジン(hexanoyl-lysine adduct)は尿を使って非侵襲的(採血などで体を傷つけず)に測定できるバイオマーカーとして広く用いられて います。
PCBと発がんの関連性
PCB(Polychlorinated biphenyls:ポリ塩化ビフェニル)は発がんプロモーターであることが知られています。この発がんメカニズムに 活性酸素によるDNA損傷が関わっていることが明らかにされています。
Oxidative DNA adducts after Cu2+-mediated activation of dihydroxy PCBs: Role of reactive oxygen species.
Wendy A. Spencer, Hans-Joachim Lehmler, Larry W. Robertson and Ramesh C. Gupta
Free Radical Biology and Medicine 46(10),p1346-1352(2009)
タンパク質酸化損傷のバイオマーカー
タンパク質は活性酸素による酸化の主要なターゲットの一つであり、主なタンパク質酸化修飾物としては カルボニル化蛋白タンパク質過酸化物(Advanced Protein Oxidation Products: AOPP)ジチロシン、ニトロチロシン(nitrotyrosine)等が知られています。

タンパク質のカルボニル化修飾物は、活性酸素種がタンパク質のアミノ酸残基(Lys, Arg, Thr, Pro)に 直接作用することによって発生するほか、 糖質や脂質酸化物の2次生成物として発生します。こうしたタンパク質の酸化損傷は、タンパク質の構造や機能に重大な影響を与えます。 これまでに神経変性疾患、糖尿病、高コレステロール血症等においてカルボニル化蛋白 が増加することが報告されています。 カルボニル化蛋白は、化学的に比較的安定なバイオマーカーであり、 マロンジアルデヒド等、他の酸化損傷物に比べ比較的長時間血液中に存在することが 報告されています(Pantke U, et. al., Free Radic Biol Med 27(9-10), p1080-1086, 1999)。
酸化ストレスマーカーのアンチエイジング/抗加齢への応用
活性酸素(reactive oxygen species:ROS)に起因する酸化ストレスは生活習慣病や老化(aging)と深く関わっていることから、 酸化ストレスを正しく評価、コントロールすることにより病気予防や老化現象の抑制を実現できることが期待されています。 アンチエイジングドック/クリニック等で予防医学や美容、健康維持の試みが始まりつつあります。特に各個人の酸化ストレス(レドックス)に 合わせてサプリメントや抗酸化性のある機能性食品を摂取することが有効と期待されています。
また、酸化ストレスバイオマーカー(biomarkers)の多くはヒトだけでなく、実験動物等にも利用できることから、 生体内の酸化ストレス評価、抗酸化サプリメントや食品の機能性評価、トクホや医薬品の開発や治験、毒性試験、レドックス解析、 未病診断等への応用が検討されており、数多くの学会発表、論文、特集記事等に引用されています。これまでの主な学会参加/出展は下記の通りです。 ifia食品開発展、日本酸化ストレス学会(過酸化脂質学会・日本フリーラジカル学会SFRRJ/SFRRI)、日本抗加齢医学会、日本フードファクター学会、 日本未病システム学会、BOSHD、日本農芸化学会、国際バイオEXPO等。
カロリー制限とアンチエイジングとの関係
カロリー制限は線虫をはじめ様々な生物において寿命延長効果を示すことが報告されていますが、ヒトをはじめとする霊長類での効果は知られていません でした。2009年、アカゲザルを対象とした20年間にわたる長期試験において、霊長類についても適度なカロリー制限(30%カロリーリストリクション)群は 対照群に比べて、老化関連疾患(がん、糖尿病、冠動脈疾患、脳の老化)の発症率が低いこと、長期試験期間における生存率が有意に高いことが 報告されています。
Caloric Restriction Delays Disease Onset and Mortality in Rhesus Monkeys.
Science 325(5937), p201-204 (2009)
Ricki J. Colman, Rozalyn M. Anderson, Sterling C. Johnson, Erik K. Kastman, Kristopher J. Kosmatka, T. Mark Beasley, David B. Allison, Christina Cruzen, Heather A. Simmons, Joseph W. Kemnitz, Richard Weindruch.

ヒトに関して、カロリー制限(カロリーリストリクション)の効果は実証されていませんが、ホルモン、糖尿病や冠動脈疾患やガンに関連する炎症性 リスクファクターの改善効果があることが示唆されています。
Aging, Adiposity, and Calorie Restriction.
JAMA 297,p986-994(2007) Luigi Fontana, Samuel Klein

カロリー制限が、電子伝達系の構成蛋白質の発現(mRNAおよび蛋白レベル)を上昇させること、ミトコンドリア膜電位を上昇させること、 細胞内におけるROS産生を抑制することが、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)を対象とした研究で示されています。
Caloric restriction improves efficiency and capacity of the mitochondrial electron transport chain in Saccharomyces cerevisiae. Biochemical and Biophysical Research Communications 409(2,3), p308-314(2011).Joon-Seok Choi, Kyung-Mi Choi and Cheol-Koo Lee.
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